gentle touch

 

赤茶色の、形良い頭が揺れている。
俺の、脚の間でだ。
小刻みに、時折大きく上下する。
豪奢な牀台の端に腰掛けた俺の前に、地に跪いた主の姿がある。
彼の人を床になど座らせるのは心苦しく、なにしろ互いの立場からすると、あまりにも畏れ多い。
だが、共に牀台に上がって行うと窮屈な体勢が辛く疲れるのだと言われれば、
ただでさえ無理を強いている体に、余計な負担を増やすことの方が申し訳なく、この倒錯の位置関係をとるしかなかった。
せめて膝の痛みを感じることのないようにと床に敷いた己の外套が、少しずつ動いて皺を寄せ、赤暗い波を作っている。
どろりとした沼のように見えるそれを見るともなしに見ながら、
滑らかな髪に手を差し込み、響く耳障りな水音の合間に聞こえる微かな吐息に耳を澄ます。
苦しげで、けれどどこか嬉しそうな鼻にかかった声。
上から銜え込んでいるためその顔を伺うことはできないが、おそらくあの雄々しい眉はきつくひそめられているのだろう。
特に小さいわけでもない口に、しかし収まりきらないものを、それでも必死に咥内に迎え入れている。
先端が喉奥を突くのだろう、時折えずいて動きが止まり、喉仏が数度蠢くのが脇から見える。
少し顔を上げて、こちらを見上げると、瞳が生理的な涙で潤んでいてひどく申し訳ない気持ちになると同時に、
いっぱいに広げているくせに僅かに口の端を上げているように見えて背が粟立つ。
ああ。
内なる矜持を、そのまま映したような高貴な顔立ちに、淫靡な表情は不釣合いなのに、なぜ、こうも美しいのか。
その喉は、凛と気高い鼓舞の声を張り上げるために、
その舌は、国を想う思慮深い言葉を紡ぎだすために、
その唇は、強き意志と慈愛の笑みを形づくるためにあるのであって、
こんな、ことをするためのものでは決してないのに。
さも当然のことのように赤黒く醜い肉塊を飲み込んでいるさまに愕然とする。
さらに頭を下げようとしたのが、強く奥を突いたらしく大きくえずいて顔をしかめた。
辛そうな様子に、苦痛を和らげて差し上げたいと思う意思とは裏腹に、
己のものは浅ましくいっそうその体積を増して彼の人の呼吸を塞いだ。
さすがにこれ以上は無理というように、幹の6分ほどまで銜え込んでいたのを頭を引いて亀頭ぎりぎりまで戻る。
ずる、と吸い上げられ、開いて張り出た雁首がそのふっくらした唇をめくり上げると、
曝け出された内側の粘膜のあまりの赤さに目眩がした。
ぺろりと舌が先端を一周してから、一度離れ、へたりと腰を床に下ろして低く座りなおすと再び唇を陰部に寄せてきた。
今度は銜えるのでなくて接吻をするようにして表面を這い回る気らしい。
反り返った茎の根元に吸い付かれれば、
ふさり、
と、張りがあるのに柔らかな厚みのある毛が、欲を溜め込んだ袋の上に舞い降りる。
表側を、付け根から中ほどにかけて、暖かな空気を含んだ毛布にすっかり覆われ、妙な安心感に包まれた。
かさかさと唇の動きに合わせて僅かに揺れる豊かな顎鬚。
輪郭の、がっしりと横に張り出た耳下の髯は内腿をくすぐり、
そこから緩やかな角度で続いて顎先が少し長くなった毛束が、二つの球の間の線をなぞりあげるように上下する。
その刺激に、だらしなく拡がっていた陰嚢がゆるゆると収縮し始め、襞が紫糸を挟むと毛先がちくりと刺さった。
やがて唇が茎の先端に向かって裏筋を辿っていくそのすぐ後を追って顎鬚が幹を掃き上げる。
さわ
さわ
と。
その感触が、やけに爽やかで、ひどくいたたまれなくなった。
動くたびにさやかな微風が生まれて薄皮を流れていく。
あまりにも、この行為に似つかわしくない清廉さだった。
そして繰り返される、濡れた粘膜と乾いた毛の往復。
たまらない、と思う。
この方が、髭を伸ばしたいと言い始めたのは、いつのことだったろう。
おそらく未だ髭が生え始める前の、少年の時だった。その頃はよもやこのような関係に至るとは思いもしなかったものだ。
やがて孫呉の当主たる立場になった彼は、その時まだ二十にも満たない年で、
たくわえた顎鬚はその幼さを目立たせないために役立った。
他国の君主と比べ、さらには領内の臣たるべきものどもからも一回り若い彼を、決して侮られることのないよう、
堂々たる主君であることを演出するために、近しい臣下は彼よりも長く髭を伸ばさぬようにした。
その後、もはや誰もが認める呉国の頭領となり、小細工など必要なくなったが、彼の鬚はまた特別な役割を持っていた。
碧眼と誂えたような美しい紫髯は、武運をもたらすと、遠征に赴く将は、その出立の前に彼の人の鬚に触れ、戦勝を祈願する。
まじないの類をあまり信じぬ性質の主が、そのようなことをするのは、将の一人一人に声をかけ、士気を高めるための一つの儀式だからだろう。
この方のために命をかけて戦おうと、胸の決意を新たにする、己もその一人なのだ。
その忠義の誓いは決して揺らいではいないはずなのに、
何故、俺は、今、こんなことをしているのだろう。
溢れる狂おしいほどの愛しさは、しかし滾る情欲の言い訳になどならぬのだ。
浅ましく屹立した肉柱が、己にそれを突きつける。
ぺちゃぺちゃと笠の下側を舐め回していた舌が、裏筋に戻って上下になぞり、
首を左右に幾度も振ると、また顎鬚が幹をこそこそと擽った。
もう、限界が近い。
それを告げると、主は先端に吸い付き、射出を促すように手で根元を扱き始めた。
びく、と跳ねて白濁を吐き出す、その瞬間に彼の肩を押して顔を離させるのは、
口内に出してしまうのを避けるためであったはずなのだが、今となってはそれも怪しい。
どうせ、零れたものを彼の人は啜るのだから。
勢いよく飛び出た欲望が彼の頬から顎にかけてを白く汚してゆく。
俺はそれが見たいのかもしれなかった。
射精の瞬間に目を閉じていたのを、ゆっくりと開けて彼の顔を見る。
どろりとした液体が頬骨を伝い顎鬚に向かって滴り落ちていく。
威厳と、天賦の大器を象徴するその鬚に
己の出したものが絡まるのが見えると、
叫びだしたいくらいの興奮と、
死にたくなるほどの罪悪感が、
同時に生まれては濁流のように沸きあがってきて、………もう。

ひどく情けない面を晒しているだろう俺の顔を、
見上げてきた瞳の碧は、やはりどこまでも清涼で、

ああこれは罰なのだ、と、

 

わけもなくそう思った。

 

 

 

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