それは確かに甘えであるのだろうけれど。

戦場を発つときはいつも思うのだ。
そしてそれはたぶん忘れてはならないことなのだ。
心に刻み、なすべきことを考えるのがつとめなのだ。

それでも時々、どうしようもなく叫びたくなる。

夕日が、私に血の海を突きつけているように思える。

「戦になれば、民は苦しむ。兵は死ぬ。乱世を終えるなど本当にできるというのだろうか?」
「私のせいで、人が死に、苦しみ、国が滅びてゆくのだ!」
「おまえも、私のせいで死んでしまう…!」

 

「…孫権様の、せいではありません。」

 

「戦で人が死ぬのは、乱世だからです。」
「そして俺が死ぬならば、ただ己の武が未熟だっただけのこと。」
「それはすべて、あなたのせいではありません。」
「ただ、俺が人を斬るのは孫呉のため。俺が死ぬのは、それはあなたのためでありたい。」
「それが、俺の望み、です。」

あなたのせいではなく、ただ、あなたのために。

私のために、
されど私のせいではなく。

…それは、
詭弁じゃないか、と。

しかし、言葉少ななこの男が、
口先だけで論を弄するわけもなく。

 

ああどうして。
こうも私を救ってくれるのだ。

 

たまにしか出てこぬその言葉は、
それゆえに刃のように鋭いけれど、
いつだって
痛む部分を、腐り爛れた私のどうしようもない悪い部分だけを
抉り取ってくれる。

光明だった。

私にとってこの男は。

 

焼け付く炎をさえぎりやさしく包む影でありながら、
夜明けのような鮮烈な一筋の光よ。

 

「あぁ本当にいつも、お前には救われてばかりだな」
「…いえ…何も…」

 

 

傷を負うのはあなたのために。
傷を負ったのは武の未熟ゆえに。
負った傷は己の誇り。
残った跡は忠義の証。

あなたの気に病むことなど何一つない。

 

 

 

ふふ、と。
「…そうか。そうだな。ならば、その傷を、誇りとせよ。」
「……はい。」
私もまたそれを誇りに思うから。
お前に護られた、そのことを。

 

すべてはこの乱世を共に戦い抜くために。

 

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