雨日狂想
あの水仙の花はあなただったのでしょうか。
	月の光の中で凛と輝いていた、
	あの水仙の花はあなただったでしょうか。
	しなやかな手足と、
	鮮やかな笑顔で、
	あのとき私を許してくれたのは、
	あなただったのでしょうか。
 
すべて忘れて去っていく非情な私です。
◇◇◇
それは、思い出せないのでなく、
	もう無いのですよ。
	思い出は、あまりに痛いので、
	殺してしまったのですよ。
 
そういえば、雨が降っていた。
	
	濡れた君はあまりに小さくて、
	夜には雨が上がり、
	満月が出ていて、
	照らされた君はあまりに綺麗で、
	私は、――――――――――
 
ああ、もう思い出したくない。
 
死んだ筈の想いが、
	殺した筈の心が、
	永遠に閉じ込めておこうと思ったのに。
◇◇◇
満月の夜のあなたは、清らかに気高い水仙でした。
	新月の夜のあなたは、白く浮かび上がる水蓮でした。
	雨の夜のあなたは、―――――――――
私の肺に流れ込む、水そのもの。