得物に哀の口付けを
「お前は遠慮が過ぎるな。」
牀の上、俺を見上げて孫権様が仰った。
「慎み深いのは美徳だが、閨でくらい乱れてみせろ。
	 …私は、お前なら、かまわない。」
その甘やかな許しの言葉とこの腕の中貴方が俺に全てを預けている現実にふと目の眩む思いがする。
 わかってはいるのだ。
	 もとより、手に入れられると思うほど傲岸でもない。
	 貴方はただ狩られるだけのか弱い獲物ではなく、天下に咆哮する雄雄しき虎で、
	 その真っ直ぐな性情のまま、俺を、求めてくださっているのだと。
 だが貴方はご存知か。
	 俺の中に棲む、猛る凶暴な獣の心を。
	 貴方を閉じ込め目を塞ぎ、喰らい尽くしてしまいたいと思うこの愚かな激情を。
 だから俺は、ただ優しく貴方に口付ける。
	 拗ねる貴方と、己の狂気をそっとなだめるように。