多分自分は、心底彼に惚れている
仕えるべき主君への恋情を自覚したところで、ならばそれが忠義にとって代わったのかと言えば、けしてそんなことはなかった。
今も変わらず、いや、より一層の忠節を誓っている。
	己の中で、それは何の矛盾もなく確かに存在し続けている。
	不思議には思う。
	従来、目の前の現実しか見えぬ性質ゆえ、物事に対する心持ちと言うものを単純化する癖があった。
	いやむしろ、さしたる種類の情を感じたこともなかったかもしれない。
	欲しければ奪う。いらなければ捨てる。賊の頃はそれで足りた。
	生きるために必要だから武を磨き、その感覚を好んだから剣技をきわめた。
	喧騒を嫌い、大言や虚飾を疎んだから無口になった。
	己にとって好ましいか、そうでないか。ただそれだけで全てが片付いたのに。
	全てを適当と思しき単語に押し込めて必要以外に語る気のない自分なのに、誰よりも大切なあの方への想いは一言では言い尽くせない。
	愛しくて。恋しくて。威厳高きその風格に跪き従いたくて、けれど時に小さなその背を抱き締めて守って差し上げたくて。
	大器を持つ君主に対する忠誠、
	気遣いの細やかな上官に対する尊敬、
	健やかな育ちの貴人に対する憧憬、
	長き時を傍らですごしてきた者に対する親しみ、
	幼い頃からその成長を見てきた年少に対する父性、
	凛々しく華やかな性格に対する恋慕、
	優しく可愛らしい表情に対する愛情、
	…本来これは許されぬことだけれど身体的な魅力に対する劣情、まで。
	慣れ親しんだ感情と見知らぬ感情の数々を彼に対して抱いている。
	あるいはさらに。
	乱世を平らげんとする志は彼の元で。
	武への探求は彼を護る為に。
	怒りを覚えるのは彼に敵するものに対してで、
	悲嘆は彼に害が及んだことに対して。
	己以外に向けられる視線への僅かな嫉妬も、
	腕の中に閉じ込めて自分のものにしてしまいたい渇望も、
	それで彼を傷つけないかと懼れる恐怖も、だからそれを強く戒める自制も。
心のどこを探しても、すべて彼に行き着くものばかりなのだから。
	情の機微に疎い自分でもわかる。
多分俺は、心底、