相当浸食されていると思う、心の奥の奥まで

うっかりしていた。迂闊だった。いつのまに、こんな、

初めは確かに憎悪のみだったはずだ。父を殺し、悪びれもせず飄々としてやがる姿に怒りがつのった。
頭ではわかっていた。それは乱世の常だと。奴は別に個人的に父を狙ったわけではない。敵だったのだ。その後、誘われたから孫呉に降った、ただそれだけのことだ。
けれど、忘れることなんて出来ない、忘れるわけにはいかない、この恨みを。
そう思って、日々あの光景を思い返し、胸に憎しみを刻み続けた。
いつか殺してやる、そのために奴の姿を追い、あの顔を胸に焼き付けた。
だけど時間と共闘の日々は抗いようもなく凍てつく心を溶かし、面影の父はそれを微笑って許してくれるようになり。
それでも、今度は単に気に食わなかったはずだ。
多分、正反対の性格。いいかげんで、すっぱりと単純な考え方で、何に対してもやたらと熱くて。
言うことなすこと気に障る。つうか意味がわからない。
なのに、ある日ふと疑問に思ってしまった。

なんで俺、まだあいつのことばっか考えてるわけ?

怨むためだけに思い描いてたあの顔が、今はやけに活き活きと心の奥の奥で笑っている。

憎しみのほうに気をとられているうちに、その裏で、妙な感情が育っていた。
気づいた時にはもう、止めることなんて出来ないくらいになっていた。

ああもう、なんだっての。

いつの間にかこんなところまで侵食されている。

 

 

…でもまあそれもいいか、なんて、思う日が来るとはねぇ。
 

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