自分の着物の一番上を脱ぎ、比較的平らな岩の上に敷いて、彼をその上に座らせ、そっと衣をはだけさせていく。
 上質な布がそろそろと秘めやかな音を立てて落ちてゆくと、
 そこに現れたあまりにも白い肌に息を呑んだ。

 女ではない。だがこれは、男でもない。
 いやむしろ、「人」になる前の、その魔性。
 なめらかな直線を描くその肢体、いまだ青ささえ持つ前のただひたすらに甘い体臭。
 精を吐いたことすらないのでは…そう思うとぞくりと下卑た悦びがこみ上げる。
 その感覚を。なにものともわからぬままに、ただ体に刻みつけ。
 俺の手の中で達くことだけを覚えればいい。
 快楽は、俺のみが与えるものと迷信すればいい。
 何にも染まっておらぬこの体も心も、もはや他の入り込む余地もないほどに、
 自分だけで埋め尽くしてしまえたら。

 こわばった体をなだめるよう、背骨に沿って指をすべらせながら、あごの下に吸い付いた。
 まっすぐなのどをなぞり、華奢な鎖骨に何度も口付ける。
 ごく軽く歯を立ててみると、ぴくりと彼が身じろいだ。
 本当に、食われると思っているのだろう。怖がらせるつもりは無いが、捕食者となる言い知れぬ興奮が沸き起こった。
 腕で背を支えて少し後ろに倒す。
 周りの肌とあまり色の変わらない淡い飾りを舌先でちろりと舐めてみた。
 「ひゃんっ」
 可愛らしい鳴き声。
 「くすぐっ、たいよぉ」
 言って、身を引こうとするのを許さず、
 切なさが胸の奥に響くようにぐっと押し込んだ状態で捏ね回す。
 それから反対に、ちゅ、と吸って、舌全体で舐めあげる。
 「ふ、ぅん…」
 鼻にかかった声に甘さが溶けている。
 感じやすいひとだ。
 見れば、触れていない方の実まで、色付き、尖りを見せていた。
 そちらに貪るように吸い付き、すでに濡れている方を指で円を描くように弄った。
 俺の指でつまみ捻るには、まだ小さすぎるようだったからだ。
 存分に果実を味わってから、唇を下に移動させ、臍に息を吹きかける。
 そこで、一度体を離した。
 「…お気をつけて…」
 俺の腕に体重を任せていたのを、しっかりと座りなおさせ、両腕を後ろについて上半身をご自分で支えていただく。
 そうして俺はさらにかがみこみ、靴を脱がせて足の甲に口付けた。
 むこうずねの骨を、足首から上に向かって唇でなぞり上げる。
 つんと尖ったひざを、可愛らしいと思った。ぐるりと舐め回し、裏側に舌をやると、普段触れられぬ場所だからだろう、くすぐったそうに身をよじった。その様にも興奮がつのってゆく。
 もう一方、左ひざには、小さな擦り傷のようなものが見える。そういえば、木登りをしていて降りるときに転んだと言っていたか。
 いつも背伸びをして兵法や政務の勉学に明け暮れているこの大人びた少年が、子供らしく外で遊ぶのをとても望ましいことと思いつつ、けれどこのひとに、二度と傷などつけさせまい、と強く自分に誓った。
 ほっそりとした太ももを舐る。硬い筋肉、あるいはたっぷりとした脂肪の、そのどちらも付いてはいないが、肌がことのほか柔らかく、たまらなくそそられる。頬を摺り寄せると夢見るような心地がした。
 「んぅ…」
 彼の体が細かく震えている。膝裏に手を入れ俺の肩に担ぐように支えてはいたが、大きく脚を広げたその姿勢は、両腕と腰のみで体勢を保つことになるから辛いのだろう。
 「失礼します…」
 背を抱き、そっと横たえる。
 見下ろせば、どうしていいかわからないという風に瞳が揺れていたから、額に、頬に、唇を落とし、舐めるようにくちづけた。
 ふっと力の抜けたその姿は、覚悟を決めた獲物のようだった。木漏れ日に照らし出された小さな身体。
 己の獰猛を自覚する。

 一刻もはやく目の前のこれが食べたい。

 邪魔な布をすべて取り去れば、あとはただその身を貪るのみだ。

 日にさらされることのない故に、生白い稚魚に似たその部分は、今はうっすらと紅く染まって、緩やかにすぼまりながら先端の少しだけ綻んだ姿が、花開く直前の蕾のようだと思った。
 あえてそこを素通りし、小さな二つ実を掠め、その奥に隠れている、固く閉ざされたほうの蕾に指をやる。
 ゆっくりと指の腹で揉みほぐすように押し回し、舌で、花弁の一枚一枚をめくるように舌先を少しだけ押し込みひだの一つを引っ掛けてくいっと掬い上げることを、ぐるりと一周するまで繰り返した。
 「や…っ、幼平、そんなとこ、汚いよ…!」
 「あなたに…汚いところなど…ありませぬ…」
 本当だった。薄紅色のその部分を、可憐だと思った。
 十分に濡らしてから、小指をゆっくりと差し入れてみる。
 それでもそこにはかなりの太さに見えた。
 「ぅあっ、あっ、…な、に…っ」
 おそらくひどい異物感に、彼が目を見開く。薄く涙を湛えた表情が、しかし媚びている様にしか見えない。
 ざらざらとした細かな起伏のある内壁の感触を確かめるようになぞる。
 摩擦の熱がじんわりと広がって、彼の全身と俺の手が赤みを増していく。
 指先が、最奥にしまわれた秘密の火種を探り当てた。
 「ああ――――っ!」
 瞬間、細い腰が跳ねあがった。
 それにあわせて、前で凛と立ち上がった花芯が頭を揺らす。
 溢れた透明な露が絡んでぬらりと光っていた。
 …綺麗だ。
 感嘆の思いが胸に満ちる。
 江賊をやっていたとき、花に喩えられた娘を攫っても、傾国と呼ばれた妓女を抱いても、あるいは蠱毒の様と言われる男娼であっても、さしたる感想を持たなかった。
 欲を吐き出すだけの相手は、見てくれなどどうでもよかった。
 だが、目の前のひとのなんと美しいことか。
 隠微の部分さえ、こんなにも清らに輝いている。
 そっと包み込むように銜えた。
 「あぅ…んんっ、は、ぁっ」
 口の中でそれがぴちぴちと跳ねる。
 唇で根元をはさみ軽い圧迫を加えながら舌で形に沿って撫で上げる。
 柔らかな包皮は唾液に溶けてしまうのではと思うほどだった。
 しかし芯は確りとした硬さを持っている。
 その間も、奥まった熱の沸く泉への刺激は続けていたから、入り口がきちきちと音を立てて収縮を繰り返していた。
 不意を突くようにぐりっと指を回転させ、一気に引き抜くと同時に、前をきつく吸い上げると、
 「っぁあああっ――――――っ!」
 高く細く、けれど弾かれた絃のように響く声をあげ、彼が果てた。
 びくんっ、と身体全体をふるわせて、とろりと舌の上にこぼされた蜜を、少し指につけて目の前にかざす。
 それは引いた糸もすぐにとぎれてしまうほどさらさらとしていたが、確かに白濁を帯びていた。
 薄く満足の笑みを浮かべ、青い果実のにおいを鼻に抜くようにして味わいながら、
 ゆっくりと嚥下した。


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