思い返しても、あの時、本当に孫権様は何も知ってはいなかった。
 …いや、今でも、どこまでわかっておられるのか知れぬところがある。
 あれから、孫権様は変わったと言われる。背伸びをしていたのが、自然に大人び、無理をしていたのが心からの笑顔を見せるようになった。
 そしてなにより、薫る様な色香が。咲き誇るような美しさが。皆、口に出してはいないが、確かに感じている。
 それは紛れもなく、俺との関係の所為だ。
 けれど、依然、まっさらに無垢なのだ。驚くほどに純粋な魂は一点の汚れさえない。
 悪意も邪気もなく、ただそこに在る妖艶。

 だからこれは人外の者なのではないかと。

 

 腕から逃れたそのひとが、するすると木々の間を抜けて、あの、秘密の苑へと俺を導く。
 麗らかな日差しの中で、無邪気に、淫靡な誘いを口にする。

 「ねぇ…あれを、してよ…」

 真っ白なその肌は見た目通り水牛の乳のような匂いがして、触れるととろとろと溶けだしてしまいそうだ。
 次第にその色は薔薇色に染まっていき、今度は果実のように匂いたつ。
 どこもかしこも感じるらしく、はじめから全身が性感帯となるべくあったのだと思う。
 俺が引き出し俺の色に染め上げたはずなのに魔性の気にあてられて変えられたのは自分の方かもしれない。
 甘い肌から夢魔の毒が滲みだしているのだろうか、
  このいきものに触れるたび指先からしびれが走り耐えがたい快感が体をかけ巡る。
 触れるだけで…興奮する、なんて生易しいものじゃない。
 これはまさに、絶頂の感覚。
 まるで、己の指が性器になってしまったかのようだ。
 愛撫の手を早める度、自分の方が追いつめられていく。
 気を抜いたら、このひとより先に、俺が達してしまいそうだ。
 咥えこませた指を縊るように締め付けるから、喉の奥がひゅうっと鳴った。
 殺されている。
 そう思った。

 

 いつかこのひとのなかで、絞め殺してもらえるなら俺は。

 

 

 

 わからない。
 その蠱惑に抗うことが出来ぬ恐怖なのか。
 それでも自分しか求めぬひとへの征服感なのか。
 捕らえたのかとらわれたのかすらわからない。
 ただがんじがらめに繋がれたこの絆、それを何かで呼ぶのなら。

 

 

 「愛」としかいいえぬだろう。

 

 

 


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 シリアスのつもりで書いてたんだけど、冷静に読み直してみると笑える内容のような気がする。
  「幼平に開発された子権、素質がありすぎてあらびっくり」、みたいな。(笑)
 …いいです、笑って読んでくださればそれで。