だが、にやにやと男が口にした言葉にぞっとする。
「あぁ、そうか、あんたが仕込んだんだろ」
何を、言うつもりか。
「なるほどなぁ」
前に立たれているせいで、孫権から周泰の顔は見えない。
微動だにしない彼が何を思っているのかわからない。
駄目だ、知られてはいけない。こんな私の想いを、
確かにもう、この身が奴らにどのように扱われてきたかは知られてしまっているけれど、
こんな汚れた人間からの、おまえにとっては迷惑なだけの、一方的な思慕を、
「前はいっつも歯ぁ食いしばって耐えてるだけで、勃ちもしねえし、」
それはお前が下手なだけだろ、と仲間内で下卑た笑いが走る。それまで喋っていた男は、うるせえ、お前だって突っ込むしかしてねぇじゃねえか、それに俺はあそこが締まれば他はどうでもいいんだよ、と返して、再び視線を孫権らに戻して続けた。
「それが合肥から戻ってから、急に具合がよくなりやがってよ。」
「…や、やめろ」
「この前やったらあんあん鳴くわ、慣らしもしねえのに中は溶けるわ、しかも、」
「やめろ!!それ以上言うと許さんぞ!!」
「勝手にイきやがってそん時、誰かさんの名―――」
ざっ!と孫権が剣を振りかざすと、男は笑いを納めぬまま数歩退いた。
目の前が真っ白になっていた。泣いていたかもしれない。
がむしゃらに斬りつける孫権の前に、刹那、大きな闇が現れたかと思うと、
一閃。
噴きだした水平線が左から右へ細く走った。
「…向こうへ…」
言われた言葉の意味が一瞬わからず、立ちすくむ。
「どいていて下さい……!!」
振り向いた周泰の瞳は、孫権が見た事もない、凍るような殺意に満ちたものだった。
驚く間もなく、どんっ、と肩を強く突かれた。
…ああ…
信じられない、絶望だった。
あの周泰が、乱暴に自分を突き飛ばした。
もうこちらを見ようともしない。
怒りに任せて孫権を抱いたときさえ、どこまでも気遣いを失わなかった男なのに。
堪え切れず孫権は駆け出した。振り向くことは出来ない。
胸の血が冷えて、嗚咽が止めようなくこみ上げてくる。
軽蔑したか。
そうだろう、薄汚い男どもに辱められながら自分の名を呼ばれていたなど、吐き気がするほどの嫌悪だろう。
忠を捧げる価値のどこにもない主だったと、気付いたろう。
いや、あの時すでに、そう思っていたのかもしれない。
こうして何度も助けに来てくれて、守る素振りを見せてくれたからあらぬ期待をしてしまったけれど。
私の罪を許してくれたのではないかと。
だけどわかっていたことじゃないか。
もう戻れない、汚辱にまみれた私の恋心は、叶えてはいけない狂気だから。
死にゆくだけのこの想い、今、最期に胸の内呟いて殺すから。
愛してた。