なぜ、なぜお前はまたも来てくれるのだ。こんな、こんな私のもとに、どうして、なお。
いや、きっとそれは、孫呉への忠義によるものなのだろう。
わかっている。
そしてそれで十分じゃないか。それ以上、何を求めるというのか。
そう思っても、目の前に表れた黒い影に一瞬今までの何もかも忘れて嬉しさが込み上げてくるのを抑えきれなかった。
拠点内の守備兵を瞬く間に蹴散らし、孫策らが咆哮を上げると、外の守備をさせられていた兵が門を開けた。
「おお、孫堅様が救出されたぞ!」
孫堅らの救出が伝わり、遠呂智軍に残っていた孫呉の将兵たちが次々に離反し始める。
「へへっ…熱くなってきたぜ!さあ、後は妲己をぶっ飛ばしに行こうぜ!!」
「うむ、解き放たれた虎の恐ろしさ、思い知るがいい!」
ここから孫家の反撃が始まる。
もと来た坂を駆け上っていく父と兄を見ながら、孫権は少し遅れてその後を追った。尚香は孫堅ら救出のため囮となった旧臣たちのもとへ援護に走っている。
自分の後ろにはいつもの静かな気配。それが、今は落ち着かない。
途中の拠点に陣を敷いていた菫卓を破り、妲己のいる刑場への道が開けると戦闘はさらに激しさを増した。こちらの気勢も上がっているが、さすがに妲己直下の兵は精鋭揃いで、守りは堅い。
と、聞きなれた声が孫権たちの目の前に立ち塞がった。
「おっと、どこへ行く気だ?そこの淫売さんよ。」
あの6人だった。
「わざわざまたしても戻ってくるたぁ、そんなに俺らと離れたくないってか?ひゃはは!」
すかさず、周泰が庇うように孫権の前に出る。
「お?…へえ、よくまぁそんなのをまだ守ろうって気になるもんだな。」
周りを伺えば、兄も父も離れたところで戦っているようで、こちらに気付いてはいないのがせめてもの救いだった。