そんな中、孫権らが公開処刑されるという報せが入って、孫策軍は俄かに騒然となった。
 執行はいつなのか、場所はどこなのか、孫堅はいまも無事なのか、残る孫呉の将兵はどうしているのか、なんと孫権が遠呂智軍に戻っていたとは、処罰が分かっていて何故、もしや死ぬ気では、そんな馬鹿な、いやあり得る。
 将たちが口々に言い合うのを少し離れて眺めながら、周泰は部屋の隅静かに立ち尽くしていた。
 …やはり、戻られていたのか。
 わかっていた。
 今までも、あれだけのことに耐え抜いてこられたのだ、責任感の強いあなたが、残る兵たちを置いて一人逃げるわけがないことも、父君の命を少しでも長引かせるために、最後まで離反しない姿勢を見せ続ける為だろうことも。
 そして、もはや孫呉に自分は戻れぬと思い、自らの命を投げ打つつもりでいるだろうことも。
 どこまでも痛ましいその覚悟を実現させないこと、今はそれだけを考えなければいけないというのに。
 だがどうしても胸のうちで何かがささやく。
 戻った先には、あの男どもがいるのだ、と。
 考えないようにしても、思い浮かべてしまう。
 今頃、何をされているのか、を。
 狂った溶岩のような、怒りとも絶望とも付かぬ思いが内臓を焼き尽くす。
 そして空っぽになった体に残るのはただただ深い闇だ。
 ぐらりと視界が歪んで、周りの音が聞こえなくなった。
 もう、この耳にはあの声しか届かないようだった。

 


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