どれほど傷ついたろう。絶望しただろう。信じていた側近に無理やり犯された、その時の孫権の気持ちは周泰の想像を絶する。
 怒ってくれていればいい、と思う。貴様も奴らと同類かと軽蔑し、激怒のうちに断罪してくれればいい。ふざけるな、と、決して許さぬと、その怒りで周泰を、男どもを、遠呂智軍を焼き尽くせば、あの強く気高い心は、いつか忌まわしい記憶も乗り越えるだろう。
 だが。
 あの時の孫権の様子を思い出す。
 孫権は、抵抗らしい抵抗をしなかった。
 周泰の目の前で男どもに嬲られていた時は、瞳を悲嘆に歪めながらも、きつく歯を食いしばり、人質の命を繋ぎとめるため必死に耐えていたのがわかった。少しでも早く凌辱の残滓を取り去って差し上げたくて、水屋で全て吐き出させ、水で顔と髪を清めた時は、敢えてその抵抗を排した。
 しかし、孫権の中に残された男どもの名残を見ているうちに何も考えられなくなった周泰が、たまらずそのまま孫権を抱いてしまった時、彼は抗うことなく周泰を受け入れた。
 触れる手に甘やかな反応を返すその体は、まるで望まれているかのように錯覚させるほどだった。
 …もちろん、そんなはずはない。
 無抵抗と柔らかな許容が、防衛のための追いつめられた順応ならば、ただただ痛ましい。
 ぴりりと残る背傷の感覚に、周泰は少しだけ眉をしかめた。
 なのに、今この痛みに微かに甘い切なさと、激烈な嫉妬を駆り立てられる己はどこまで愚かなのだろう。
 生来染み付いた冷静は、今も、そしてあの時もほとんど表情を変えさせることはなく、どこか場違いな気遣いを最後まで保たせたが、その実、愚かしい激情はいとも簡単に周泰の理性と思考を奪い去ったのだ。


次頁 前頁

頁一覧