「…行くぞ…」
拠点を保つ兵だけを残し、周泰が部隊を率いて出陣すると、遠くぽつりぽつりと田畑と家の跡が残る平野を、土煙を立てて向かってくる大軍が見えた。
思ったよりさらに速い。そして、思ったとおり孫策軍の勢いはすさまじかった。南の道が断たれたことで、全軍が一体となって押し寄せてきているようだ。
両軍が激突すると、たちまち辺りは乱戦の様相を極めた。
退かせても退かせても立ち向かってくる士気の高い孫策軍の兵らを相手に、周泰も馬を降りて戦っていると、それを見とめた森蘭丸が周泰に向けて駆けてきた。少し離れたその後ろには孫策の姿も見える。
数合打ちあった後、蘭丸の長太刀を弾き返し、間合いが出来たところで、周泰は刀を一旦鞘に収め、居合の構えをとった。
「周泰様、何故このような兄弟の戦いを止めないのですか!主の行いを正すのも臣の務めではないですか!」
叫ぶ蘭丸の若い言葉は、孫呉の絆を知る周泰の耳には届かない。しかしまっすぐに忠誠を口にする姿が、まぶしい刃となって周泰に斬りかかる。
「……孫権様は…俺が守る……」
…何を言うか。
自嘲がよぎる。
お前は、守れなかったではないか。
主が鬼どもに陵辱されているのに気づきもせず安穏と日々を過ごし、
あまつさえ追い打ちをかけるように無理やり犯したではないか。
傷ついたあのひとに、己の欲を叩きつけたではないか。
物狂う胸の懊悩は磨いた武技をわずかに鈍らせる。振るう剣の軌道からいつもの冴えは失われ、周りの状況も相まって、案の定、一度退かねばならない状態にまで追い込まれた。
「…まだだ…」
…だが、それでも俺は、あなたを、