「…………」


 やがて間断ない絶頂の連続に孫権が意識を飛ばすと、ようやく周泰は孫権を解放し、牀台を降りた。
 とっくに熱くなっていた湯に布を浸して絞り、適度な温度に冷ましてから丁寧に孫権の体を拭ってゆく。
 存分に精を放ちきった体からじんわりと湧き上がってくる満足感と、激情から我に返った意識が思い知る氷のような絶望とが、胸の中でしのぎを削り、心を掻き乱して吹き荒れる。
 それは、今なお続いていた。


 合肥の地に着き、本陣の北に位置する拠点に入ると、周泰の部隊は先行して陣地を築いていた兵達に迎えられた。
 彼らによってすでに防柵などは出来上がっており、周泰は拠点内を一通り確認してから部隊の編成を整えた。あとは本陣からの命が来るまで待機することとなっている。
 本陣から離れた拠点に配置となったのは幸いだったと周泰は思う。
 孫権は、もうこの顔を二度と見たくないに違いない。当然のことだ。
 己が犯したのは、幾度死罪になってもなお余りある大罪だろう。臣下の分際で、厚き信頼を寄せてくれた主君に暴言を吐き、あろうことか劣情で汚した。
 …だからせめて、彼の目に見えぬところで、
「本陣から伝令!周泰将軍、出撃せよとのことです!」
「……来たか……」
 既に、合肥城に攻め入った先鋒隊は伏兵にかかって敗走したと聞いている。そしてこの伝令の報告によれば、本陣北の橋が孫策軍によって破壊されたらしい。援軍を送ることが出来なくなれば、いくら鉄壁の防御を誇る曹仁とはいえ、勢いに乗った孫策軍の全てを防ぎきることは不可能だろう。
 橋が壊れたということは、孫策軍もそこを通ってこちらの本陣に行くことはできなくなったということを、さらに、援軍を送れなくなったということは、南道に部隊が留まっていることを意味する。となれば、孫策軍が北に迂回してくるのは確実だった。すなわち、ここを必ず通るということだ。
 守らねばならない。何があっても。


次頁 前頁

頁一覧