早朝、居城を後にした馬上で、周泰は一瞬だけ後ろを振り返った。
この世界では黒く澱んだ色の朝もやに包まれて朧ろげな城の輪郭が目の端に映ると、ちりりと胸を刺す疼きと悔恨。
脳裏には、つい数刻前の孫権の姿がありありと浮かぶ。
始め、後ろから腰を打ちつけていた周泰は、もっと、体を余すことなく密着させたくて、途中で服を脱ぎ捨て、向き合うかたちに体勢を変えて孫権を抱いた。
横たえて見下ろした孫権の目からは涙がとめどなく溢れ、それでもはっとするほど美しかった。
苦悶の嗚咽も怒りの言葉も、聞きたくはなかったからすぐに口を塞ぎ咥内を舌で犯す。
唾液を絡ませ、吸い込み、噛み付くように口付けながら腰の動きを速めれば、
背に、腕が回り爪が立てられたのを感じて、どきりと胸が高鳴った。
込み上げてくるときめくような高揚は、次の瞬間ぞっとするほどの絶望に変わる。
この腕は、あの男どもの背を抱いたのか――――
まさか、孫権が遠呂智軍の妖魔に心を許したり、あるいは陵辱されて喜んでいたなどとは思っていない。
誇り高き心が、汚らしい暴力をどれだけ屈辱に苦痛に感じていたか、想像するまでもない。
だが、それでも、この目の前で快楽に喘ぐ愛しい人の姿を、
その紅潮した肌を、潤む碧い瞳を、震える高い声を、しなやかな筋肉で覆われた胸、腹、足を、甘く絡みつく内壁を、
貪った者どもがいるのだと思うと、たまらなかった。
決して、手に入らない人だから、諦めていたのだ。
どんなに触れたくとも、抱きしめたくとも、
その身を汚すわけにはいかないから、自分を求めてくれることなどあるわけがないから、ただ傍にいられるだけで、信頼のまなざしで見てくれるだけでいいと自分に言い聞かせ、耐えてきたのだ。
たとえ孫権が他の誰かを愛し、抱き、あるいは万が一抱かれることがあったとしても、自分には何もできない。してはならない。
彼自身が望んだ行為なら、この思いは不遜。
だが孫権が身に受けていたのがまぎれもない陵辱であっただけに、猛る激情に歯止めなどきかなかった。
孫権に非などなく、憎むべきはあの鬼どもでこの怒りは筋違いだとわかっていても、止められなかった。
泣きたくなるような嫉妬と独占欲を腹に滾らせ、周泰は一層強く孫権を貫いてその中に熱を注ぎ込んだ。