「おいお前ら配置換えだってよ―――……って、なんだよコレ」


 扉が再び開き、現れた男のけだるい声に、一瞬、その場の全員に緊張が走った。
 が、すぐにそれが外に立っていた仲間の一人と分かると、室内にいた男の一人が声を返す。
「…なんだ、お前かよ。驚かせんじゃねえ。ていうかお前見張りはどうしたんだよ。おかげでこのザマじゃねえか。」
「いや、だから伝令が来てよ、ここじゃアレだからって東の部屋に引っ張ってってそこで話聞いてたんだよ。ああ、そんでな、俺らの部隊はこれから妲己様の軍に編入されるから、合肥じゃなくて小田原に向かえってよ。」
「はあ?急な話だな。で、いつからだよ」
「だから、今からだって。何でも反乱軍の奴らが襲ってきたとかでさ、明日の朝には着いてろっつーからすぐ出発しねえとやべえんだよ。」
「おいおいマジかよ。上の奴らは人使い荒くてホント困るぜ」
「ていうか何?こいつ入ってきたの?」
「あー、まあな。ってああそうか、ほらよ、」
 腕を掴まれたままの状態で男らの会話を聞くともなしに聞いていた孫権を、男はそのまま肩を押すようにして前に突き飛ばした。
「っ」
 すかさず、周泰が倒れこむ孫権の体を受け止める。硬い革の小手に包まれた腕がしっかと体に回されるのに、一瞬気が遠くなった。
 そんな孫権を鼻で笑い、さっさと衣服を整えながら男が二人に向けて続ける。
「…ま、そんなわけだ。俺らはこれから出なきゃなんねえんでな、お前と遊んでるわけにいかなくなったわ。寂しくなるだろうけど我慢するんだぜ、ひゃはは」
「…………」
「おっと、なんだその眼。主君を侮辱するなってか?へっお美しい君臣の紐帯だねえ。まあ、あとはそっちでよろしくやってくれや。」
 孫権を抱えながら、斬り裂くような視線を向け続けていた周泰に、一人が吐き捨てるように言うと、遠呂智軍の鬼らは次々と部屋を出て行った。

 


次頁 前頁

頁一覧