「失望したか?そうだよなあ、やってらんねえよな。自分たちが必死で戦ってるってのに主人は男とお楽しみなんてな。」
周泰の手がきつく握り締められているのが俯いた横目にも見える。なおも続ける男のあまりといえばあまりの言葉に、それでもじっと耐えながら状況を打破する途を探っている。
ある意味、見られたのが周泰だったのは、一番ましだったと言えるのかもしれない。
気性の荒い他の武将であれば、屈辱に耐えきれず斬りかかっていたかもしれなかった。
そうでなくとも、主君を辱められたと一気に遠呂智軍に反旗を翻そうとするか、孫策軍の下に離反しようとするか、あるいは主家の者が敵に媚を売るような国を見限るか、いずれにしてももはやこんなところにはいられないと思うのが普通だろう。その点についてだけは、男の言葉は的を射ている。
しかし、周泰ならば孫呉への忠誠が変わることはない。この最悪の状況にも軽挙妄動して事を荒立てることなく、主家の恥には口を固く閉ざし、期を得て人質を救い出し隷属から抜け出した暁には、父や兄に従い、今までどおり孫呉に忠節を尽くすのだ。…たとえ、孫権に失望したとしても。
だから、こう思うのは私のひどく個人的な想いからなのだろう。
おまえにだけは、知られたくなかった、と。
知られたくなかった。
他の誰でもない、お前に、お前にだけは知られたくなかったのに。
周泰の視線が自分に注がれているのが、孫権には見えずとも気配でわかる。それは孫権の身を案じ、救出の期を窺うものであると知っていても、見ないでくれと叫びたくなる。
お願いだから見ないでくれ。こんな、私を、見ないで――――――
尚香たちのように、どこかで離れてもらうべきだったのか。そうすれば、こんな所を見せてしまうことも、不快な思いをさせることもなかった。
だが、それでも。
手放したくなかったのだ。
顔を合わるとき、どれほど後ろめたくとも、関ヶ原でその他の戦場で忠義の誓いを聞くたび、自分にはそれを受ける資格など無いのだと罪悪感に体中を苛まれても、どうしても、そばに置いておきたいと願ったことが、こんな最悪の結果を迎えてしまうなんて。
「おい、お前もなんか言えよ」
「……!」
男が孫権の腕を掴み、無理やり立たせようとしたのに、周泰が一歩踏み出したその瞬間、