余すことなくその身を知るため、手で触れたところを何度もなぞる。
 頭の頂から足のつま先まで、初めは指先でたどり、掌で撫でる。
 次に口付けを繰り返すように点々と唇で吸い付き、それを線で繋ぐように舌で舐める。
 そして最後はじっくりと視線を這わせてゆく。
 若い肢体の、瑞々しい色香を目に焼き付けるよう、上から下へ端から中心へと時間をかけて眺める。
 額の和毛の一本一本まで見分けるように目を凝らし、眉を梳かしつけるように視線を左右に振り、その下の吸い込まれそうな碧に微笑みかけると、まっすぐに俺を見てくださるから、しばらくそのまま見詰め合った。
 絡み合う視線が甘い結合の艶音を発している錯覚をおぼえる。
 俺が僅かに目を細めたのを見て彼の頬が再び羞恥に染まり、きゅ、と瞳を閉じてしまわれた。
 その薄紅色の瞼が細かに震えているのをうっとりとした気分で見つめてから、俺はゆるゆると視点を下の方へ下げていった。
 ぴんと張った鎖骨のすがすがしい稜線を、気恥ずかしげに自己を主張する両胸の果実を、形良く穿たれた臍の窪みを、その映像をしっかと目の奥に送り込んで、一度目を閉じ、脳裏に焼き付ける。
 そして、顎を引き、顔をその部分に向けて、ひとつ大きく息をついた後、おそるおそる目蓋を開けた。
 ひらいた両の目に映ったのは、白い丘にあつらえられた官能の祭壇。

 

 頭髪よりも一層色素の薄い下生えは、より緋色味が目立ち、ゆらゆらと火が燃え盛っているように見えた。
 そしてその中心でそそり立つ柱もまた、周りで揺らめく炎に焼かれたように、真赤い。

 

 そっと指先で先端に触れてみれば、案の定ひどく熱く、じっとりと先走りの露を滲ませていた。
 触れられるたび、ぴく、と揺れ動く様は小動物のように愛らしく、ゆったりと撫でてやる。
 「ぅう…」
 孫権様は、物足りないとでも言いたげに、眉をひそめて腰をよじった。
 そのくせ握りこんで一度摩り下ろしただけで声にならない悲鳴を上げて身体を突っ張る。
 あまりに初々しい反応は、触れられることに慣れておらぬからか。他人に、は当然だろうが、ご自分でもまともに弄ったことがないのではと思わせる。自慰の経験がまったくないわけではなかろうが、刺激の仕方をまだご存じないのだろう。
 ならば。
 脇に身体をずらし、孫権様を抱き上げる。俺に背をもたれかからせるように膝のあいだに座っていただき、背後から腕を回した。
 首元にふわふわとした髪が触れて甘くこそばゆい。
 ちょうどつむじのところで両手の中指が触れ合う形で彼の頭に手を添え、ゆっくりと撫で下ろしてゆく。薄い耳が指の隙間を通り過ぎる、その瞬間に耳たぶに僅かに爪を立てて軽く引っ張り、耳裏から続くえらの張った輪郭を親指で確かめ、鎖骨の終点がぷくりと飛び出た肩を掌で包み、指先を腋に差し入れてくすぐるようにしながら二の腕をたどり、ひじの裏側を指圧して余計な力を抜かせ、皮膚の薄い手首に脈拍を感じて、その手を採った。
 そしてそのまま彼の中心に手を導く。
 「…なっ、何を……」
 戸惑うように振り向いた顔は、しかしその瞬間、自らの手が触れたことにさえ感じてしまった羞恥に赤く燃え上がった。
 まだ小さな手を外側から包み込むようにして、自身の雄を握っていただく。
 「ひゃ、……っ」
 人差し指を裏筋に添え、親指の腹で、あふれる露を先端部分全体に塗りこむようにしながら、残りの三本の指で根元を掴んで柔らかな包皮ごと上に擦り上げる。
 一度頭がすっぽり皮のうちに隠れてしまうまで上にきたら、少し握力を加えて擦り下ろす。
 きゅう、と内腿に力が入ったのがわかった。
 はじめはゆっくりと、だんだんと勢いと握る強さを増しながら扱きあげる。
 「あっ、あっ、あんっ」
 腰が微細に揺れだす。密着した体から、彼の肩、腕、手の筋肉が自ら動き始めたのが伝わってくる。
 …そう、それでよろしいのですよ。
 頭を垂れて、淡く熱を帯びたこめかみに口付ける。
 この先、貴方がご自身を慰められるとき、今はもう添えるだけになっている俺の手を、この動きを思い出してくださるのなら、それはどれほどの光栄であることだろう。
 唇をこめかみから頬へと滑らせ、ちゅ、と吸い付く。
 眉を切なげに寄せながらもうっとりと蕩けた瞳で定まらぬ視線を空に投げている貴方の、下腹の筋肉に緊張が走ったのを感じて、解放の隙を与えず俺の指できつく付け根を握り締めた。
 発達途上の体は、自ら堪える力など育ってはおらず、根元のほうがどくりと跳ねたのがわかる。
 「―――――っっっぐっぅぅ!!」
 苦しげに暴れる体を全身で包むようにして押さえつけながら、得物を絞る力を緩めることはしない。
 ほんの少しだけ、ぷくりと露が先端に浮かんで玉を作った。淡く輝く白濁は、まるで真珠のようだ。
 「っふ、っぅぅ」
 少しずつ腕の中の体が力を抜いてゆく。こみ上げたものが奥底へと戻っていったのだろう。代わりにじわりと疼きが再びその部分を占領してきているはずだ。ぴんと張り詰めたままの姿に、更なる快楽を与えることを誓ってからそっと手を離した。

 

 ただ一人と定めた仕えるべき主、貴き貴方に、俺が捧げられるものなど大してありはしない。
 この武と、この命と、この忠と。
 貴方にとって少しでも意味があるものならば、なんだって差し出せる。
 そしてこの心とこの体とこの熱と。
 俺の全てでもって、貴方を高みに導いて差し上げたい。

 

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