次の瞬間、魚の姿は跡形もなく消えていました。
「…!!」
確かに水が弾けた音がしたのに、辺りは何処も濡れていません。
ただ、王子の手のひらに、大きな漆黒の鱗が一枚、残されていました。
「…泰…おまえは…本当に、あのときの……」
王子にはわかったのです。ずっと自分を護ってきた男が、誰だったのか。
「……泰…、…泰……っ!!」
魚の名を呼んで泣き叫ぶ王子、けれど当然そこに返事はなく、
はらはらと零れた王子の涙に濡れた鱗が、その手の中で、きらきらと切なく輝くのみでした。
FIN
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